9月6~10日に第14回全日本 学生フォーミュラ大会開催
公益財団法人自動車技術会は7月7日、国内外の学生を対象としたものづくり・デザインコンペティション「第14回 全日本 学生フォーミュラ大会」を、9月6日(火)から10日(土)まで開催することを発表した。大会はこれまでと同様に、静岡県の小笠山総合運動公園(エコパ)で行われ、入場無料で見学可能だ。
「フォーミュラ」とあるので、学生がレーシングカーを作ってレースで競うモータースポーツ型の競技会と思われる方が多いかも知れない。実はそうではなく、ものづくり系の企業で活躍できる人材の育成を目的としたコンペティションだ。
実際、第1~8回大会に参加した82チームへのアンケートでは、同大会経験者の内、卒業後に約57%が自動車業界で活躍しているという大会である。
チームはレーシングカーコンストラクターという想定で参加!
特徴的なのが、参加チームのスタンス。学校を代表するチームもあれば、同好会として参加しているチームもあるのだが、いずれにせよ「オリジナルのレーシングカーを開発するベンチャー企業」という想定の下で競うことになる。しかも、そのレーシングカーには「年間1000台の生産を想定したビジネスモデル」というレギュレーションが課せられている点も大きな特徴だ。
評価されるポイントも、レーシングカーの「車両走行性能」はもちろん重要だが、それは一要素でしかない。高性能なレーシングカーを生み出せる「開発能力」、そのレーシングカーを無理なく生産できる「コスト管理能力」、1000台のレーシングカーを売り切る「販売戦略」まで評価されるのだ。
要は、この4要素すべてが優秀なチームなら、そのまま何かのベンチャー企業としてやっていける可能性があるのではないかというほど、企業経営にまで踏み込んだ内容となっている。
第14回大会の概要を説明する自動車技術会常務理事の窪塚孝夫氏
2013年からは国際統一の「Formula SAE」シリーズに
そして同大会の近年の大きな動きとしては、2013年から「Formula SAE」シリーズとなったことが挙げられる。日本を含め、アメリカ、イギリス、イタリアなど世界8か国11大会にて、同一ルールのもとに競技が行われるようになった。さらには、ロシアや中国、インド、カナダなど8か国も、シリーズ外だが同一ルールを採用して同様の競技会を実施中である。
世界同一ルールとなったことにより、海外の大学が日本大会に参加してくることが容易になった。実際、昨年はオーストリアのグラーツ工科大学(2015年独大会で総合4位)が総合優勝を獲得している。日本の学生チームが海外遠征するのは大変だが、同大会なら、日本にいながら海外の強豪チームとも切磋琢磨できるようになってきた。
発表会では、早稲田、上智、横浜国立の3チームによる今年の体制に関するプレゼンテーションも行われた。
今年は海外31チームを含める最多の106チームが参加
また、第14回大会は過去最多の参加チーム数となっており、これまでの最多だった2014年の96チームから10チーム増え、106チームとなっだ。そして、海外チームも過去最多となり、2014年の21チームからこちらも10チーム増えて31チームに。
日本は75チームで、その内3チームが新規。海外は31チームの内の15チームが新規だ。海外31チームの中で最も多いのがタイの6チーム。次いでインドと中国の5チーム、インドネシアの4チームと続く。さらに、台湾とマレーシアの3チーム、オーストリアの2チーム、そして韓国、パキスタン、ポーランドが1チームずつという内訳だ。
海外チームの強豪は、ディフェンディングチャンピオンとしてゼッケン1をつけるグラーツ工科大学に加え、2015年独大会で総合3位という、グラーツ工科大よりも上位であったオーストリア・ヨアネウム応用科学大学がエントリー。ものづくり大国の日本としては、1-2を持っていかれるような事態は避けたいところ。日本チームにはぜひがんばってほしい。
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過酷な1000台販売の目標が設定された競技内容
エンジンの排気量が610cc以下なので、「軽自動車フォーミュラーカー」ともいうべきマシンを作ることになる
「1人乗り用レーシングカーを1000台も売る」には!?
そして製造するレーシングカーだが、こちらはF1などでお馴染みの、タイヤがむき出しでコックピットもオープンという、シングルシーターのフォーミュラカーとなる。ただし、高性能なレーシングカーを1台作ればいいというわけではないのは既に書いたとおり。
どれだけしっかりとした開発体制・環境を築けるか「開発能力」が問われるし、費用をかけるところにはかけ、省けるところは省くという「コスト管理能力」も重要。
だが、最も難しい評価ポイントは「販売戦略」だろう。「1年間に1000台生産する」ことを想定したビジネスモデルなのだ。もちろん、ただ1000台作っておしまい、というわけではない。ビジネスとして成立させる必要があるということは、1000台売らなければならないのだ。もしくは、先に1000台を生産できるだけの予算を調達する必要がある、ということである。
普段の足としては一切使えない、レーシングカーという特殊なクルマを1000台も売るというのは、かなり難しいといわざるを得ない。どれだけ高性能で安価だったとしても、「このレーシングカーでレースをしたい」という人・組織を増やさない限りは不可能だからだ。よって、このレーシングカーが参加できるレースカテゴリーがなければならないし、それも日本国内だけでは足りないから、世界をターゲットにする必要もあるだろう。
このように、単にエンジニアとしての技術力だけではなく、企業として成り立たせるためのマネジメント能力、そして営業としての広い視点や発想力なども問われるのが、同大会の参加する側にとっては難しいところであり、また見る側にとっては魅力のひとつなのである。
「プレゼンテーション」と「デザイン・コスト」の2部門がある静的審査の様子。営業的トーク力も求められる。
2013年からは「EVクラス」も実施中!
また同大会は2013年からは2クラス制となっており、ガソリンエンジン車が対象のICVクラスと、EV(電気自動車)クラスがある。第14回大会は93チームがICVクラスで、13チームがEVクラスだ。ICVクラスは610cc以下の4サイクルエンジンを搭載し、排気音量は所定条件で110dB以下という制限。イメージとしては、軽自動車フォーミュラーカーといったところだ。
EVクラスに関しては、バッテリーからの最大電力が連続的に80kWを超えないこと、最大公称作動電圧が600VDCというルール。電気モーターの搭載数に制限はなく、エネルギー回生が認められている。ちなみにEVクラスを3連覇している静岡理工科大学が、名古屋大学と合同でチームを結成してEVクラスに参戦することも、第14回大会の注目トピックだ。
理工系学生のためのものづくり系コンペティションはいくつもあるが、ここまで「どうやって自社製品を売るか」という営業力まで踏み込んだ大会はそうそうない。ぜひ足を運んで学生たちを応援してあげてほしい。
2016年7月11日(JAFメディアワークス IT Media部 日高 保)