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ライフスタイル最終更新日:2016.11.14 公開日:2016.11.14

第7回 土門(どもん) 拳(けん)(1909~1990)

昭和の時代、日本写真界のリーダーとして活躍した土門拳。『ヒロシマ』『筑豊のこどもたち』『古寺巡礼』などの写真集と作品を数多く残し、昭和20年代後半には「リアリズム」を提唱、写真界に一大ブームを巻き起こしました。

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広島を訪れた際の土門拳。

1909(明治42)年に山形県酒田町(現在の酒田市)生まれ、6歳で東京、9歳で横浜へ引っ越した土門拳(本名です!)。家が貧しくて旧制中学2年で退学しようとしたときは、先生たちに才能を惜しまれ、卒業まで学費が免除されたほど成績優秀、絵や習字も得意だったそうです。18歳で中学を卒業しますが、折からの不況もあり職を転々、小さいころからの夢だった画家への道もあきらめた24歳のとき、母のすすめで上野の宮内写真場の内弟子となり、写真の世界に入りました。
26歳で、写真工房のカメラマンとなり、主に日本を海外へ紹介する写真を担当しますが、29歳で退社。その後、国際文化振興会の嘱託カメラマンとして同様の仕事を敗戦まで続けますが、このころから仏像や文楽などの写真も撮り始めます。
1945(昭和20)年、35歳で、終戦とともにフリーの写真家に。40歳で、カメラ雑誌の審査員となり、アマチュア写真家の指導を開始、43歳で写真集『風貌』、44歳で『室生寺』を刊行、45歳のときには初めての個展を開催。47歳のときに広島を訪れ、深刻な原爆問題を正面から取材、翌年刊行した『ヒロシマ』は大きな反響を呼び、数々の賞を受賞しました。
昭和35(1960)年、50歳で、新聞と同じザラ紙に刷った100円写真集『筑豊のこどもたち』を刊行。10万部以上を売るベストセラーとなり、閉鎖される炭鉱の失業者救済が急務であることを世に知らしめました。

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代表作のひとつ『筑豊のこどもたち』(1959)より、「母のない姉妹」。

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子供が大好きだった土門拳。昭和の子供たちをたくさん撮影した。「傘を回すこども」(1937頃)

同年、脳出血で倒れ、軽い後遺症が残りつつも、写真集『古寺巡礼』を刊行するなど活動を続けますが、58歳のとき2度目の脳出血で入院。翌年退院するも、右手の利かない車椅子生活になりましたが、それでも強烈な粘りで撮影を続けました。
その後、昭和54年(1979)年、69歳のとき、脳血栓に。以後11年間、意識不明のまま眠り続け、平成2(1990)年、80歳でこの世を去りました。

酒田に暮らしたのは6歳まででしたが、自らを「東北人」と称し、強く故郷を愛していた土門は、64歳のとき、酒田市名誉市民第1号に選ばれ、全作品約7万点を酒田市に贈ると表明。それを機に、土門が意識不明状態の昭和57(1982)年5月に工事を開始、翌年オープンしたのが、日本初の写真専門美術館「土門拳記念館」です。

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飯森山公園の中にある土門拳記念館。美しい自然林と丘を背景に、前面に池を配した。天気がよければ、秀峰・鳥海山も見える。

設計者の谷口吉生が土門と親しかった亀倉雄策や勅使河原宏、イサムノグチ、草野心平に声をかけ、一流芸術家が集結。周囲の自然と調和し、『ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン』にも2つ星として掲載された、すばらしい美術館です。

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亀倉雄策デザインの銘板。

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イサムノグチ作の彫刻「土門さん」。

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中庭(ガラスの向こう)のデザインは、勅使河原宏。

土門のライフワークだった「古寺巡礼」をはじめ、「室生寺」「ヒロシマ」「筑豊のこどもたち」「文楽」「風貌」などの作品を、保存するとともに、順次公開しています。

「写真は肉眼を越える」「モチーフとカメラの直結」など数々の名言も残した土門の作品は、どれも力強く、見る者に迫ってくるようです。
上野の写真場時代には、住み込みの2年間に、仕事を終えた夜、寝床で500冊もの本を読破し、伯父に借りたカメラで、ピント合わせやシャッター切りのトレーニングを毎日独学していたという土門は、人並み外れた勤勉さと粘り強さを併せ持っていました。
一切の妥協を許さず、信念を貫いた土門は”写真の鬼”と呼ばれていますが、厳しさの裏には、シャイで淋しがり屋という人間らしい一面もあったよう。記念館内の映像に出てくる土門の若かりしころの姿も必見です。

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愛用したカメラやメモ帳などの展示も。館内のショップには、オリジナルグッズや書籍などもある。

土門 拳記念館
山形県酒田市飯森山2-13 ℡0234・31・0028
【開】9:00~17:00 (入館は16:30まで)
【休】4~11月はなし(展示替休館あり)、12~翌3月は月曜(祝日の場合は翌日)、年末年始 
【料】一般430円、高校・大学生210円、中学生以下無料(特別展期間中は料金の変更あり)
☆JAF会員証提示で、団体料金に

撮影=村上宗一郎

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