2023年04月23日 18:00 掲載

交通安全・防災 青信号に従っていても起きる交差点事故|長山先生の「危険予知」よもやま話 第17回


話・長山泰久(大阪大学名誉教授)

ドイツでは小学校で教わる"アイコンタクト"

長山先生:以前にも話しましたが、交差点などでは「アイコンタクト」が重要です。

編集部:相手と目と目を合わせてお互いの意思を確認する「アイコンタクト」ですね。

長山先生:今回の場合、右折車が動いていると、なかなかアイコンタクトまで取るのは難しいですが、相手が停止していれば、相手の顔がピラーの陰に隠れて見えないことは分かるはずです。相手の顔が見えていないなら、当然相手の意思も判断できませんよね。

編集部:そうですね。「本当に気づいて止まってくれるのか?」不安ですね。

長山先生:安全に行動できるかどうかは、関係する相手と自分が双方ともに気づき、相手の行動を正しく読み合って初めて成り立つものです。たとえお互いの存在に気づいていても、ちゃんと目と目を合わせて意思を確認しないと「相手が待ってくれるだろう」と勝手な思い込みをしてしまい、事故になる危険があります。ドイツでは、小学校2~4年生が対象の『交通の世界』という交通教育読本の中で、下の写真を使って"Blickkontakt"(英語ではeye-contact、日本語ではアイコンタクト)を教えています。2つの写真はほとんど同じように見えますが、1つ重要な違いはどこでしょうか? と問いかけるものです。

長山先生の「危険予知」よもやま話 第17回|『交通の世界 第2巻 質問と理解』(『ドイツ自動車連盟(ADAC))|くるくら

ドイツ自動車連盟(ADAC)が作成した『交通の世界 第2巻 質問と理解』より(Welt des Verkehrs Ⅱ fragen und verstehen)

編集部:上の写真ではドライバーが子供を見ていませんが、下はちゃんと見ていますね。子供もそれを知ってか、横断歩道に踏み出していますね。

長山先生:そうですね。この写真では分かりにくいですが、上の写真では女性ドライバーだけでなく、子供も全然違う所を見ているのに対して、下の写真は、お互いに相手を見て、お互いに目と目を合わせ、ドライバーが自分に気づいて譲ってくれたのがよく分かったうえで横断を始めるのです。このテキストには、「アイコンタクト」のほかにも交通場面の写真から相手の意図を読む練習をさせたり、イラストの中から注意深い人とそうでない人を探させる課題もあり、相手の心を読む(意図を読み取る)ことの大切さを教えています。

編集部:「アイコンタクト」と聞くと、つい目線を合わせればいいと思いがちですが、相手の意図を読み取ることが目的なのですね。それにしても、写真の車(古いフォルクスワーゲン・ビートル)を見ると、ドイツの交通安全教育の歴史の深さを感じますね。

『JAF Mate』誌 2016年5月号掲載の「危険予知」を元にした
「よもやま話」です


【長山泰久(大阪大学名誉教授)】
1960年大阪大学大学院文学研究科博士課程修了後、旧西ドイツ・ハイデルブルグ大学に留学。追手門学院大学、大阪大学人間科学部教授を歴任。専門は交通心理学。1991年4月から2022年7月まで、『JAF Mate』誌およびJAF Mate Online(ジャフメイトオンライン)の危険予知コーナーの監修を務める。2022年8月逝去(享年90歳)。

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