2023年03月28日 23:10 掲載
交通安全・防災 人は急ぐと何をするか分からない!?|長山先生の「危険予知」よもやま話 第16回
東京オリンピックで外国人の逆走事故が増加!?
編集部:たしかにヨーロッパや米国は右側通行が多そうなので、日本の左側通行に慣れるまで逆走の危険はあるかもしれませんね。
長山先生:日本は右ハンドルで左側通行ですが、下の地図から分かるように世界では右側通行の地域が圧倒的に多いのです。
出典:ウィキペディア(Wikipedia)
編集部:ヨーロッパで車を運転する機会が多かった長山先生は、右側通行で逆走することはなかったのですか?
長山先生:ありました。市街地など車が多くて前の車について走っているときには間違うことはないのですが、郊外に出て周囲に車が走っていないと、右左折したときに左車線に入ってしまうことがあるのです。日本での習慣が身に付いていて、何か考えながら運転していたり、ボーッと無意識で運転しているときに曲がったあとに左車線に入ってしまい、対向車がやってきて間違いに気づいて慌てて右車線に戻ったものです。
編集部:恐いですねー。でも、長い間向こうで暮らしていれば、さすがに右側通行に慣れますよね。
長山先生:長く住んでいれば慣れるはずですが、数年向こうに在住していた新聞社の特派員の方に乗せてもらった場合にも同じことがありました。その方は左車線を走っていて対向車がやってきても、しばらく相手が間違っていると思っていたようで、「危ない運転をする人間だな」とつぶやいていました。
編集部:それは凄いですね。「危ないのはそっちだろ!」と対向車から突っ込みを入れられてしまいますね。完全に思い込んでしまって、自分が間違っているなんてまったく頭にないのですね。
長山先生:そうだったのでしょう。でも、しばらくして自分が間違っていることに気が付いて、慌てて正しい右側車線に戻って正面衝突を避けることはできました。
編集部:でも、長山先生もその間よく黙って乗っていましたね。まさか2人とも逆走していることに気づかなかったわけではないですよね。
長山先生:ドイツに行って1週間ほどのことで、初めてドライブに連れて行ってもらったときだったので、私も余裕がなかったのです。私も最初は「危ない運転をする奴がいるな」と思っていましたが、気が付いてヒヤッとしましたけど。
編集部:そうだったんですか。でも、身についた習慣というのは恐いですね。当然、逆も同じで右側通行の国の観光客が日本で運転すれば、同じように逆走する危険性がありますね。
長山先生:外国から来た人が逆走事故を起こしたという報道を見聞きしたことはありませんが、右側通行の国から来た人なら起こしかねない事故です。ちなみに、訪日観光客が多い国は、中国、韓国、台湾、香港、アメリカの5か国で、その中で日本と同じ左側通行の国は香港だけです。他の国のドライバーが日本で運転する場合には、通行方法により生じる失敗についての知識や情報を事前にぜひ知ってもらい、失敗のない有意義なドライブを経験してもらいたいものです。
『JAFMate』誌 2016年4月号掲載の「危険予知」を元にした
「よもやま話」です
【長山泰久(大阪大学名誉教授)】
1960年大阪大学大学院文学研究科博士課程修了後、旧西ドイツ・ハイデルブルグ大学に留学。追手門学院大学、大阪大学人間科学部教授を歴任。専門は交通心理学。1991年4月から2022年7月まで、『JAF Mate』誌およびJAFメイトオンラインの危険予知コーナーの監修を務める。2022年8月逝去(享年90歳)。
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交通安全・防災