2023年03月28日 23:10 掲載

交通安全・防災 人は急ぐと何をするか分からない!?|長山先生の「危険予知」よもやま話 第16回


話・長山泰久(大阪大学名誉教授)

外国の標識と間違え、帰国後に取り締まりを受ける

編集部:前回のスイスの標識は日本にはまったくないものでしたが、日本にある標識と紛らわしいものがあったのですね。

長山先生:下の2つの標識です。左の標識はドイツなどで使われている国際標識で、右側は日本人なら誰でも知っている「一時停止」の標識です。

長山先生の「危険予知」よもやま話 第16回|標識#01|くるくら

編集部:国際標識は中まで赤で塗りつぶされていませんが、どちらも同じ逆三角形で、似ていると言えば似てますね。

長山先生:ただし、意味は微妙に違っていて、国際標識は「相手に優先権を与えろ!(Give way)」の意味、つまり「道譲れ」の標識なのです。

編集部:"相手を優先させろ"の意味でしたら、日本の「止まれ」と意味的に似てますよね?

長山先生:"道を譲る"と"止まる"は似ているようで違います。"道を譲る"ほうは、安全確認して相手が来ていなければ止まらず進んでもかまわないわけです。

編集部:なるほど。日本の「止まれ」は交差車両の有無にかかわらず、必ず一時停止する必要がありますが、国際標識のほうは安全確認したうえで来ていないのが確認できれば、必ずしも一時停止する必要はないのですね。でも、日本の場合、はっきり「止まれ」の文字が入っていますよね。それでも混同して取り締まりを受けてしまったのですか?

長山先生:私が取り締まりを受けたのは、ドイツから戻って2、3年経った1963年頃で、その頃日本も国際標識を取り入れたという話を聞いていたのです。国際標識と聞いて、つい逆三角形の標識は相手が来ていなければ停止しなくてもよいと思って進んでしまったところ、一時停止違反の取り締まりにあってしまいました。うかつにもそのように受け止めてしまった私が悪いのですが、ドイツでは"Give way"の交差点が多く、必ず止まらなければならない標識(下)はそれに比べると少ないこともあり、つい形だけ見て思い違いをしてしまったわけです。

長山先生の「危険予知」よもやま話 第16回|標識#02|くるくら

編集部:道路状況が違うので一概には言えませんが、日本では見通しのいい所でも"一時停止"の規制が多いので、"STOP"の標識が少ないドイツのほうが合理的なのかもしれませんね。よく、外国人はたとえ信号が赤でも車が来ていなければ道路を平気で渡ることが多いと聞きますが、何か国民性というか安全に対する考え方の差を感じますね。話は若干逸れますが、バイクに乗り立ての若い頃、警察官が一時停止違反を取り締まる際の判断基準が「足を地面に着けたかどうか」という点と聞き、止まれの標識がある所では片足を地面に着くことばかり意識していました。しっかり止まって左右の確認をすることが本来の目的なのに、本末転倒ですよね。

長山先生:そうですね。もちろん、日本の警察(公安委員会)も見通しが悪く出会い頭事故が多い交差点に一時停止の規制をかけていると思いますが、一時停止の規制が多いと危険に対する意識がどうしても希薄になります。それに対して、外国の"Give way"は止まる必要がないぶん、相手が来ているのか自分の目でしっかり確かめる必要があるので、危険予知・危険予測のポイントである"危険を積極的に探しに行く"という視点にも合っています。

編集部:先生が帰国されたあとの1963年といえば、東京オリンピックが開催される前の年でしたね。2020年の東京オリンピックを前に道路の案内標識を英字に統一するなど、いろいろ考えられているようですね。(編集部注 本稿は2016年作成の記事を再編集したもの)

長山先生:そのようですね。外国の方が訪日されて日本で運転される機会が増えているようですが、東京オリンピックを迎えその傾向は非常に高まると思います。私が心配するのは、右側通行と左側通行の違いによる逆走です。

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