2023年03月28日 23:10 掲載

交通安全・防災 人は急ぐと何をするか分からない!?|長山先生の「危険予知」よもやま話 第16回


話・長山泰久(大阪大学名誉教授)

横断歩道がなくても、横断者には道を譲る。

編集部:今回のように横断歩道を渡っている歩行者がいれば、停止して道を譲る必要がありますよね。

長山先生:そうです。道路交通法38条で、横断歩道や自転車横断帯に近づいたとき、歩行者や自転車が横断しているときや横断しようとしているときは、手前で一時停止をし、歩行者の通行を妨げないようにしなければなりません。ただ、今回のような状況では、たとえ渡っている人が見えなくても、徐行しなければいけません。

編集部:渡っている人がいなければ、そのまま通過してもいいんじゃないですか?

長山先生:今回のように対向車が停止していて右側の状況が十分確認できない状況では、そうではありません。道交法38条では、横断歩道や自転車横断帯を横断する人や自転車がいないことが明らかな場合を除き、その手前で停止できるように速度を落として進まなければならないからです。

編集部:対向車の死角で右側が十分確認できないので、「横断する人や自転車がいない」とは言い切れないわけですね。完全に左右が見通せて、横断しようとする歩行者や自転車がいないのが明らかな場合のみ、そのまま進めるのですね。

長山先生:そのとおりです。ただ、住宅街では建物が死角を作りますし、自転車や小走りの歩行者は、横断歩道から離れた位置から走り込む危険性もあるので、"明らかに横断する人などがいない"という状況は少ないかもしれません。

編集部:死角ではありませんが、先日横断歩道を通過しようとした際にヒヤッとしたことがありました。横断歩道の手前でスマホを見て立ち止まっている歩行者がいたのでその前を通過しようとしたら、突然渡り始めたのです。渡らないのかと思っていたら、すっかり騙されました。油断ならないですね、歩行者は。

長山先生:それは危険でしたね。でも、十分考えられるケースです。たとえば、スマホの地図で目的地を探しているときはそれに意識が集中するので、目的地やルートが分かったとたん、周囲も注意せずに歩き出してしまいます。

編集部:横断歩道を通過する際には、本当に横断する人や自転車がいないのか、十二分に確認しなければいけないのですね。

長山先生:そうです。また、同じ道交法38条の2には「歩行者保護」の考え方から「交差点またはその直近で、横断歩道のない場所で歩行者が道路を横断しているときは、その歩行者の通行を妨げてはならない」としています。つまり、交差点やその近くでは、たとえ横断歩道がなくても横断する歩行者を優先させなければいけません。

編集部:そうなんですか!? 横断歩道があれば歩行者を優先させていましたが、横断歩道がない交差点ではこちらが優先だと思って、まったく止まらずに通過していました。

長山先生:車両の運転者は弱い立場である歩行者を保護しなければいけないので、たとえ横断歩道がなくても、交差点を歩行者が渡っていたら歩行者を優先させなければいけないのです。これに違反すると、違反点は2点、反則金は普通車で9,000円になります。罰則の場合、3月以下の懲役又は5万円以下の罰金となります。

編集部:危なかったです。じゃ、今回のように横断歩道ではない所を歩行者が渡ってくるケースも、もし右側に路地があってそこが交差点や交差点近くであったら、歩行者の通行を妨げてはいけないことになりますね。今回のような場合、歩行者の無謀な横断という印象が強いため、車側はあまり悪くないと思ってしまうので恐いですね。これこそ先生が口を酸っぱくして言われる「知らないことほど危険なことはない」ですね?

長山先生:もちろん、車の陰から急に出てきた歩行者側にも問題はありますけど、道交法を知らないと違反になる可能性はありますね。知らなかったばかりに違反になるというのは、外国で運転する場合により注意が必要です。以前、私は日本と外国の標識を混同してしまったばかりに取り締まりを受けた経験があります。知らないことは危険なだけでなく、いろいろな問題の原因になるものです。

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