2023年03月05日 17:20 掲載

交通安全・防災 追突事故が起きやすい、施設への左折!|長山先生の「危険予知」よもやま話 第15回


話・長山泰久(大阪大学名誉教授)

スイスで実感"知らないことほど危険なことはない"

長山先生:私が外国で運転をしたのは昭和35年に旧西ドイツのハイデルベルク大学に留学したときでした。それ以降もヨーロッパに調査に行くときには、スイス・オーストリアのドイツ語圏を主体に、フランス・イタリアなどでの周辺国での運転を経験したものです。

編集部:ヨーロッパでの運転経験は豊富なのですね。英国など一部の国を除けば、右側通行なので、左ハンドルと右側通行に慣れれば大丈夫そうですけど。

長山先生:私も最高速度こそ違うものの、どこの国もルールの基本に違いはないから大丈夫と思っていました。ライン川の源流を求めてドライブしたときのことです。源流はスイス中部のアルプスにあり、アルペン山岳道路を走っていたところ、前方遠くから音楽が聞こえてきました。さすが音楽の国だと思いながら進んでいくと、ホルンの印をつけた路線バスがやってきました。

編集部:ホルンのマークとは、なんともスイスらしいですね。

長山先生:狭い道だったため、バスとすれ違うことができずにもたもたしていると、バスの運転手が厳しい態度でバックせよと指示するのです。わずかな距離ならともかく、しばらく待避所もなかったため、狭い山岳道路をかなりの距離バックすることになりました。

編集部:慣れない左ハンドルでずっとバックするのはたいへんだったのではないでしょうか?

長山先生:退避場所にやっとたどり着いてホッとしましたが、狭い崖の上であれほど長い距離をバックしたことはそれまでになく、その記憶が強烈に残るほど恐ろしい思いをしたものです。

編集部:バスがバックするのはたいへんかと思いますが、バスの運転手もずいぶん強引ですね。

長山先生:バスの運転手があまりに厳しい態度だったので、帰ってからスイスのルールを調べてみると、「ホルンのマーク(下図)で示されているアルペン路線バスルートですり抜けや追い越しが困難なときには、公共交通車両の運転者の合図や指示に従わなければならない」と書かれていました。スイスの路線バスはポストと称してホルンマークが着いていますが、山岳道路でも優先権があり、警告音の音楽を耳にしたら、待避所で待っていなければならないというルールがあったのです。

長山先生の「危険予知」よもやま話 第15回|アルペン路線バスルートのホルンマーク|くるくら

編集部:「さすが音楽の国」なんて感心している場合ではなかったのですね。

長山先生:そのとおりで、それさえ知っていたら、バスの警告音を聞いたときに退避場所でアルペン路線バスを待っていて「危険な思い」をすることもなかったでしょう。危険予知・危険予測の問題を扱っていると、「知らないことほど恐いことはない(危険なことはない)」 との教訓を身に着けておくことの重要性を感じます。知っていることが危険予知・危険予測ができる根本的な必要条件なのです。

『JAFMate』誌 2016年3月号掲載の「危険予知」を元にした
「よもやま話」です


【長山泰久(大阪大学名誉教授)】
1960年大阪大学大学院文学研究科博士課程修了後、旧西ドイツ・ハイデルブルグ大学に留学。追手門学院大学、大阪大学人間科学部教授を歴任。専門は交通心理学。1991年4月から2022年7月まで、『JAF Mate』誌およびJAFメイトオンラインの危険予知コーナーの監修を務める。2022年8月逝去(享年90歳)。

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