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クルマ最終更新日:2020.03.10 公開日:2020.03.10

穴が開いても発火しない! 安全なリチウムイオン系バッテリー【第11回二次電池展】

東京ビッグサイトでスマートエネルギーWEEKが開催された。その中で、環境車の性能に大きくかかわるバッテリー関連の製品や技術が集まるのが二次電池展(バッテリージャパン)だ。第11回となった今回は、クギを貫通させても発火しないという、極めて安全性の高いリチウムイオン系バッテリーが注目を集めた。

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穴が開いても海水に浸しても使えるリン酸鉄系リチウムイオン電池

 リチウムイオン電池(LiB)は使い方を誤ると膨張、発熱、そして最悪の事態では発火を招く危険性がある。たとえどんなに高品質であっても、現在の一般的なLiBは破損したら危険だ。中の有害物質が漏れ出てしまうし、発火する危険性も一気に高まるからだ(リチウムは酸素に触れると発火しやすい)。

画像1。TRC高田のリチウム鉄リン系複合酸化物を用いたリチウムイオン電池。穴を開けた上に、海水に浸しても問題なく使えるという驚異的な性能を有する。

画像1。TRC高田のLiBは穴を開けても海水に浸しても安全面で問題なし、そのまま利用可能。その秘密とは?

 ところが、正極の材料の工夫などによって、安全性は大きく変わるという。今回TRC高田(静岡県)が展示したリン酸鉄系の1種であるリチウム鉄リン系複合酸化物LiBは、LiBの常識を打ち破る安全性の高さなどを備えた製品だった(画像1・2、動画1)。

実際にクギで穴を貫通させて海水に浸した実験動画はこちら

 TRC高田では1年前、同社のバッテリーに対して通電したままの状態で太いクギを突き刺すという実験を実施。穴が貫通しても発火することもなく、しかもそのまま通電しているところを披露した。さらに、穴の開いた状態で海水に浸しても、有害物質の流出もない(単に泡が出てくるだけ)。もちろん海水中への漏電というようなこともなく、引き上げたあとでもまだバッテリーとして利用できるという様子が、動画1には収録されている。

動画1。TRC高田が公開中の、同社製LiBに穴を開けて海水に浸してもまだ普通に使えるという実験動画。再生時間2分36秒。

 今回は、その実験で使用した穴の開いた製品を消防署の許可を得て展示会場に持ち込み、ボタンを押すとライトが点灯するディスプレーを設置。1年前のクギ刺し貫通実験以降充電していないが、ライトは点灯した。破損に対する堅牢性だけ出なく、自己放電率の低さも体験できる仕組みになっていた。

 穴が開いても発火・爆発することもなく、電解液が漏れることもなく通常使用が継続できるのは理由がある。穴が開いたそばから、空気に触れる面に膜ができるからだという。それにより、中から有害物質が出てしまうこともないし(もともと酸化鉄は安全性が高い)、二次電池として機能を保持できるのだ。

リチウム鉄リン系複合酸化物タイプの優れた点とは?

 リチウム鉄リン系複合酸化物は、酸化鉄(いわゆるサビ)を用いるため、分子構造的に安定していることが優れた点としてまず挙げられる。耐熱性が高いなどの安全性や、環境保護規格にも対応しているなども特徴だ。

画像2。TRC高田のリチウム鉄リン系複合酸化物を用いたリチウムイオン電池。高い安全性を証明するためのクギ刺し貫通実験で使用された製品。裏側も穴が開いている。

画像2。穴の開いたLiBの裏側。完全に貫通しているのがわかる。

 そして充電回数(耐久性)は、一般的なLiBが約1200~2000回に対して3000回以上(JIS規格で検証)。自己放電率は一般的なものが1か月で5~10%なのに対し、1年で3%以下という低さである。この自己放電率の低さにより、1年前の実験で使用した穴の開いたバッテリーが、今回の出展時にもまだ通電することを可能としたのである。

 TRC高田では日本や中国、台湾、韓国などで特許を取得し、量産体制を構築中。そして、国内においてリチウム鉄リン系複合酸化物バッテリーを用いた家庭用蓄電池を独自に開発。2020年内の発売に向けて準備しているとした。

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次はJTEKTの高耐熱リチウムイオンキャパシタについて

-40~105度まで利用可能な高耐熱リチウムイオンキャパシタ

 LiBとキャパシタの仕組みを兼ね備えた、リチウムイオンキャパシタ(LiC)と呼ばれる製品がある。LiBなどのバッテリーは化学的にエネルギーを発生させるが、キャパシタは物理的に電力を充放電するコンデンサの一種だ。キャパシタはLiBと比べると蓄電容量は多くないが、その代わりに高いエネルギーを瞬間的に受け入れたり、放出できることを特徴としている。

 その両者のいいところ取りをしたのがLiCだ。一般的なキャパシタよりもエネルギー密度が高く、それと同時に一般的なLiBよりも安全である。2019年11月から量産が始まったばかりの新製品として、JTEKTブースで展示されていたのが高耐熱バージョンのLiCだ。

画像3。JTEKTが2019年11月から量産を開始した、高耐熱リチウムイオンキャパシタの製品群。

画像3。JTEKTの高耐熱LiC製品群。サイズや放出エネルギー量など、複数の種類がラインナップされている。

正極はキャパシタで負極がLiB

 LiCとは、正極と負極の原理が異なる非対称キャパシタの一種である。正極には、電気二重層キャパシタの仕組みを備えており、静電気を利用。そして負極にはリチウムイオンを吸蔵できる炭素系材料を採用し、そこにリチウムイオンを添加してエネルギー密度を向上させている。これにより一般的なキャパシタよりもエネルギー密度が高いこと、そして一般的なLiBよりも安全であることを実現している。JTEKT製のLiCは安全性に優れており、クギを貫通させても発火する心配がないという特徴を持つ。

画像4。JTEKTの高耐熱リチウムイオンキャパシタ「2000F」(2.2~3.8V、9600J)。

画像4。今回展示された高耐熱LiCシリーズのうちで、扱えるエネルギー量が9600Jと最も多い「2000F」。

課題は耐熱性の低さにあった

 ただし、LiCにもLiBと同様に耐熱性の課題があった。従来のLiCの使用可能な温度範囲は一般的なLiBと同程度で、-20~60度。車載する場合は、車室内でも-40~85度の間で動作できる必要があり(エンジンルーム内は-40~120度)、これまではクーラーなどによる温度管理を行わないと搭載できなかったのである。

 その一方で高耐熱LiCは、通常の使用領域(2.2~3.8V)の場合で-40~85度。電圧を下げた2.2~3.6Vなら105度までの利用が可能となり、クーラーなどを必要とせずに車室内で安定して動作できるようになった(画像5)。クーラーなどを必要としないということは、まずエネルギーロスが減るというメリットがある。さらに、搭載スペースの面からもLiC本体のみになるので、コンパクト化を実現できるのだ。

画像5。従来製品と、JTEKTの高耐熱リチウムイオンキャパシタの作動温度の範囲の比較。

画像5。従来製品と、高耐熱LiCの作動温度比較。従来製品を搭載するには加熱や冷却を行う必要があった。画像はJTEKTプレスリリースより。

高耐熱LiCを開発した狙いは?

 同社がLiCを開発した理由は、現在、燃費規制の拡大、高度運転支援・自動運転の普及・拡大が進んでおり、省エネ・自動運転化には、電動パワーステアリング(EPS)の適用範囲拡大が求められていることにある。しかし、車重のあるクルマや、常時ステアリング制御を行う自動運転化時代になると、EPSを動作させるには12Vの車両電源では出力が不足してしまう。

 それに対し、今回の高耐熱LiCを充放電コントローラーと共にEPSに付加すれば、車両電源の12VにLiCの6Vを加えて18Vにすることができ、EPSの適用範囲を拡大できるようになり、出力的に問題がなくなるのだ(画像6)。

 なお同社ではキャパシタ単品だけでなく、バランス回路を加えた「モジュール」や、さらに充放電コントローラーを加えた「システム」も開発している。また用途については、クルマ以外にも鉄道、航空機、人工衛星などから医療機器や工作機器まで、数多くの乗り物や機器などでの使用を考えているという。

画像6。JTEKTでは、高耐熱リチウムイオンキャパシタを、クルマの電動パワーステアリングを動作させることに利用することを想定している。

画像6。JTEKTが展示した、電動パワーステアリング(EPS)の機構を模したモデル。同社では、高耐熱LiCをEPSの動作用に使用を想定している。


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