2018年10月19日 00:10 掲載

ニュース・プラス 東レが開発した“しなやかなカーボン”を多用してみたら車重850kgに! 超軽量EVコンセプトカー「I toP」に迫る


くるくら編集部 日高 保

"しなやかなカーボン"が採用された足回り

 "しなやかなカーボン"が採用されたパーツのひとつが、CFRPなど樹脂への置き換えが困難とされてきたサスペンションなど足回り関連の部品だ。サスペンションは、タイヤから伝わってくる路面からの衝撃を緩和・吸収するため、大きな力が加わる。そのため、従来のCFRPでは繰り返し衝撃が加わると壊れやすく、耐疲労特性の低さの面から樹脂化するのが困難とされてきた。

 しかし、今回の"しなやかなカーボン"は従来の約3倍の耐疲労特性を有することから、主要なサスペンション構成部品として採用。リアサスのスプリングが"しなやかなカーボン"に置き換えられた。

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リアサスの"しなやかなカーボン"製スプリングをふたつの角度から。左が前方で、右が側面から。CFRPをこのようにスプリング形状に製造することそのものがまず技術的に難しいという。またサスペンションのスプリングが伸縮する際の力のかかり方は複雑なことに加え、伸縮回数が非常に多いため、従来のCFRPでは耐疲労特性の点からもたなかった。カーボン製の釣り竿やゴルフクラブなどのイメージから、従来のCFRPでもしなるように見えるが、それらはしなる方向を特定の方向に限定していることから可能なのだという。画像提供:JST/東レ・カーボンマジック

 またフロントサスはF1などでお馴染みのダブルウィッシュボーン方式で、上下のアームが"しなやかなカーボン"製となっており、リーフスプリングを兼ねる設計となっている。

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フロント部分の透視図。フロントサスはアームがしなることで(緑と赤)、路面の凹凸による衝撃を吸収する。大型車などに使われているリーフスプリングが、アームそのものになっている。画像提供:JST/東レ・カーボンマジック

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実車「I toP」の右フロントサス。アッパーアームのカバーにはライトが埋め込まれている。ロアアームはライト下方の黒いパーツ。画像提供:JST/東レ・カーボンマジック

 また、ホイールも"しなやかなカーボン"が用いられた足回り関連パーツのひとつ。耐衝撃特性が改善された上に、クルマのハンドリングに大きく影響するバネ下回転部位の軽量化に貢献した。

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"しなやかなカーボン"製のホイール。タイヤも、「超薄膜化・強靱化『しなやかなタフポリマー』の実現」の研究課題のひとつとして開発されたゴム素材による専用タイヤ。開発はブリヂストンが担当した。画像提供:JST/東レ・カーボンマジック

 そして足回り関連ではないが、シート構造部材も"しなやかなカーボン"製としている。軽量化に加えて靱性(※6)に優れた肉薄のシートシェル構造が採用された。

※6 靱性(じんせい):素材の粘り強さを表す

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シート構造部材も"しなやかなカーボン"製となっている。画像提供:JST/東レ・カーボンマジック

そのほかにも新開発の樹脂が使われた部位は複数

 「I toP」の樹脂部分は、すべてが"しなやかなカーボン"というわけではない。「超薄膜化・強靱化『しなやかなタフポリマー』の実現」において開発された、別の樹脂が使われている部位もある。そのひとつがウインドーだ。住友化学が開発した、高剛性・高タフネス性を両立した透明樹脂がウインドーに用いられている。これにより従来のガラス部材と比較して軽量化されている上に、衝撃を受けた際の耐破断性も強化。飛来物の破片や飛散防止などの安全性向上にも効果が期待されているという。

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高剛性・高タフネス性を両立した、新開発の透明樹脂を用いたウインドーを多用したドア。ガラス部材より大幅に軽量化された。画像提供:JST/東レ・カーボンマジック

 さらに、従来は金属製が一般的だった衝突時に備えたクラッシュボックス(衝撃吸収体)も樹脂化された。"しなやかなカーボン"のしなやかさを担う「環動ポリマー」と呼ばれる分子構造を、GFRP(※7)に応用。それにより誕生した"しなやかなGFRP"を用いてクラッシュボックスとしたのだ。「I toP」ではクラッシュボックスを前部と側部の3か所に配置している。環動ポリマーについてはこちらから。

※7 GFRP:Glass Fiber Reinforced Plasticsの略で、ガラス繊維強化プラスチックのこと。樹脂をガラス繊維で強化した複合素材。CFRPは、このGFRPのガラス繊維を炭素繊維に置き換えたもの。

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"しなやかなGFRP"を用いたクラッシュボックス。左が前部のもので、右が側部のもの。画像提供:JST/東レ・カーボンマジック

 先ほどホイールと合わせて紹介したが、専用タイヤも、「超薄膜化・強靱化『しなやかなタフポリマー』の実現」で開発されたゴム素材で作られている。耐摩耗性が向上したことでタイヤ材料の省資源化を実現。転がり抵抗は5%と推算されている。またタイヤサイズも工夫されており、幅を狭くして大径化したことで空気抵抗を抑え、省エネルギー化を実現した。

そのほか樹脂化による軽量化に大きく貢献したパーツ

 樹脂化によって軽量化に貢献した最大のパーツは、一体成形のモノコックボディ(※8)だ。こちらは一般的なCFRPが用いられている。部品点数の大幅な削減を実現し、金属製なら約300kgになるところ、CFRP製は約140kgと、50%以上の軽量化を達成した。

※8 モノコック:車両のフレームが外板ボディを兼ねた構造

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「I toP」のモノコックフレーム。(左上)正面。(右上)背面。(下)側面。画像提供:JST/東レ・カーボンマジック

 リチウムイオンバッテリーを収めるボックスもベース部材をCFRP化し、約30%の軽量化を達成。またインテリアパネルの大半をCFRP化し、モノコックフレームやドア構造の一部とすることで、車体剛性を確保すると同時に軽量化に貢献している。

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バッテリーパックもベース部材をCFRP化することで、「I toP」全体の車重の軽量化に貢献した。画像提供:JST/東レ・カーボンマジック

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