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クルマ最終更新日:2016.11.29 公開日:2016.11.29

グッドイヤーの球体タイヤ「Eagle-360」、タイム誌・ベスト発明品2016に選定

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将来、クルマは球体タイヤを使う時代が来る? グッドイヤー「Eagle-360」がタイム誌の「ベスト発明品2016」を受賞。

 タイム誌が毎年、技術分野担当編集者によって「世界をより良く、よりスマートに、時としてより楽しくしてくれる発明品」という主眼の元にチョイスを行っている「ベスト発明品」。

 グッドイヤーが3月にジュネーブモーターショー2016において発表した、次世代コンセプトタイヤ「Eagle-360(イーグルサンロクマル)」が、2016年のベスト発明品25点のひとつとなったことが11月25日に発表された。

狭い場所での縦列駐車や細い路地の通り抜けを可能にするには?

 現在の前輪操舵のクルマだとどうしても最小回転半径が存在するし、また真横への移動ができないため、駐車場などではどうしてもその分を考慮したスペースを必要とする。しかし、真横への移動が可能となったら、もっと駐車スペースをぎっしりとさせることも可能だ。

 また同じように、とても狭い路地のため、クルマで通り抜けるのが難しかったり、そもそも不可能だったりする場合もある。しかし、そうした場所でもクルマを利用したい人は多い。

 こうした駐車スペースの効率化や、狭い路地でのクルマによる移動などを容易にするためには、真横への移動や、その場での旋回(超信地旋回)による素早い方向転換を行える機能をクルマに搭載することが研究されている。

 それには大別してふたつの考え方があり、ひとつが前後輪個別に、もしくは4輪それぞれを独立して舵を切れる4輪操舵システムだ。

 そしてもうひとつの手段が、タイヤを球形にしてしまう方法である。グッドイヤーは後者のアイディアを具現化し、タイヤはドーナツ型から変えようがないという固定概念を打ち破り、球形タイヤのEagle-360を発表したのだった。

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Eagle-360の特徴に迫る!

特徴は機動性・通信持続性・バイオミミクリーの3点

 Eagle-360には「機動性」、「通信接続性」、そして「バイオミミクリー」の3点の特徴がある。

 まず機動性だが、これは球体ならではの360度全方位に移動できる多方向性のことだ。多方向に転がれることで実現するのが、より高い安定性である。

 既存のタイヤは、横方向へのスリップが発生した際、構造的に車体が横転してしまう危険性を抱えている。球体タイヤはスリップした方向へ転がればよく、安全性がより高い。球体タイヤなら、横転はよほどのアクシデントがない限りは生じないものと思われる。

通信持続性とはセンサーからの情報共有サービス

 ふたつ目の通信接続性とは、Eagle-360にはセンサーとその情報を発信するシステムが埋め込まれているので、自車の車両制御システムおよび周囲のクルマに対して、路面状況や気象状況を伝達できることを指している。要は、自車単体ではなく、交通そのものの安全性を高めることができるというわけだ。

 さらに、センサーは空気圧およびトレッド監視も行うので、タイヤの摩耗状態もマネジメントしてくれる。球体なので満遍なく摩耗させるようにして、走行距離を延ばすことができるのである。

トレッドパターンには生物の有効な機能を模倣

 そしてバイオミミクリー(bio-mimicry)だが、これは生態模倣性という意味で、自然界の生物や生態系を模倣・参考にして、学問や技術に反映させるという考え方をいう。

 人間も含めて、現在、地球上に存在している生物は、皆すべて過酷な自然環境の中で長い時間をかけて進化してきた。その中で、想像を絶する回数のトライ&エラーが行われ、生き抜くためのさまざまな身体機能を獲得してきたのである。そうした優秀な機能を、技術的にマネしてしまおうというのがバイオミミクリーの考え方だ。

 Eagle-360でバイオミミクリーが採用されているのは、トレッドパターンの設計部分。見た目が脳に似ている「ブレインコーラル」というサンゴの1種のパターンが模倣されており、天然のスポンジのように作用する機能を持つ。

 具体的にはドライ状態では硬いが、ウェット状態では柔らかくなる設計になっており、より安全な運転ができるようになるという。同時に、ハイドロプレーニング現象の防止にも役立つとし、安全性を高めてもいるのである。

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球体タイヤをどうやって扱うのか?

球体タイヤを駆動するための方法とは?

 Eagle-360がタイヤとして優れていたとしても、それをクルマに装備できないのでは意味がない。どのようにクルマに固定し、駆動力を伝えるのか?

 Eagle-360の公表されている資料では、磁気浮揚(リニアモーター)方式が採用され、搭乗者がスムーズで静かな乗り心地を楽しめるとある。これは、磁気浮揚方式のサスペンションが採用されるということだろう。おそらくタイヤにも磁性が持たせられており、ボディと球体タイヤが直接つながらないということだ。

 駆動の仕組みに関しては明記されていないため、日本グッドイヤーの広報部に確認を取ったところ、クルマ側の仕組みにもなってくるため、現時点では細かくは設計していないとのことだった。

 ただ、サスペンションが磁気浮揚で非接触なので、駆動も同じように磁気を用いると思われる。

 しかし非接触であるということは、万が一事故や故障が発生した時は、タイヤがむき出しだと外れて転がっていってしまう可能性が大きい。そのため、下のCGのようにタイヤを完全に覆ってしまうなど、ボディ側にそれを防ぐような構造が求められる。

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球体タイヤは非接触式のため、ボディにしまうような構造にしないと、タイヤが転がっていってしまう可能性がある。

 そのほか非接触のデメリットとしては、タイヤの空転が生じやすい点も挙げられるだろう。特に、高いスピードからの急減速や緊急回避などにおいては、車体の運動制御により高度なものが求められるものと思われ、非接触式でどこまでタイヤを正確にコントロールできるのか、という点はある。

 そのほか、既存のタイヤよりも接地面積が狭くなることから転がり抵抗が小さくなることが予想されるが、それは裏返せば制動距離が延びることでもある。

 さらに、接地面積の小ささはステアリング特性にも大きく影響すると思われ、球体タイヤを採用したクルマは既存のタイヤを装着したクルマと比べてかなり異なるドライブフィーリングになるのではないだろうか。

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球体タイヤは将来、市販化されて普及するのか?

既存のタイヤに取って代われる可能性は?

 それから、普及の可能性はどうだろうか? Eagle-360を採用するには、前述したように駆動方法やサスペンション、安全性の面からクルマ側にも球体タイヤ用の設計が求められる。よって、グッドイヤー1社だけでは難しく、すべてとはいわないまでも、より多くのタイヤメーカーと自動車メーカーが手を取り合うことが、市販化への条件となるだろう。

 また、既存のタイヤと異なり、店舗などでの展示・保管にも工夫が必要となってくるはずだ。

 今までのように平積みするというわけにはいかなくなり、ハコに入れておく必要がある。そのため、球体になっただけでも体積が増しているのに、ハコに入れないとならないとなると、さらにスペースを取るので少々扱いづらいかも知れない。それよりも、重ね置きすると最下段のハコにはかなりの重量がかかる可能性があり、ハコには頑丈さが求められるだろう。

 このように、普及にはクリアすべき課題があるが、既存のタイヤにはないメリットがあるのも事実。社会全体でメリットが認識されてくれば、将来的には球体タイヤを採用するクルマも登場してくる可能性もあるのではないだろうか。

 ちなみに下の動画は、英語版だが、グッドイヤーが公式に作成した、Eagle-360の紹介動画。興味のある方は、全3分12秒なので、是非見てみてほしい。

Eagle-360の特徴を紹介した動画(英語)。スリップに対する強さなどがわかる。

2016年11月29日(JAFメディアワークス IT Media部 日高 保)

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