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クルマ最終更新日:2018.06.25 公開日:2018.06.25

マツダR360クーペ

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「マツダR360クーペ」 1960〜1969年 全長×全幅×全高:2980×1290×1290mm 軸距:1760mm トレッドF/R:1244/1250mm 車両重量:380kg エンジン:4サイクル強制空冷76°V型2筒356cc 圧縮比:8.0 出力:16hp/5300rpm トルク:2.2kgm/4000rpm 最高速:83km/h 変速機:4速MT&2速AT サスペンションF/Rとも:トレーリングアーム独立懸架 トーションラバースプリング ブレーキ:F/Rともアルフィンドラム 価格:300,000円 延生産台数:65,737台

マツダR360クーペ発売当時の時代背景とは

「R360クーペ」が発売された1960年というのは、日本中が元気一杯で、誰もが夢を広げていた時だった。音楽もザ・ピーナッツの「悲しき16歳」やパラダイス・キングの「ビキニスタイルのお嬢さん」といった明るく元気な曲がヒットを飛ばし、ツイストが流行っていた。

 テレビも、街頭で黒山になって見ていたものが一家に一台となり、そしてカラーテレビの本放送が開始されたのが、この年である。まさにここから3Cの時代に突入。ちなみに3Cとは、カラーテレビにクーラーそしてカーである。

 東洋工業(今のマツダ)は、その変化を見通していたかのように、1960年に「R360クーペ」を発売したのだ。スバル360の発売から2年後のことである。

 新技術を満載したお洒落なクーペは、注目を集めての登場となった。エンジンは他車が2サイクルのなか、Vツインの4サイクルを採用。驚くことに、オイルパン、クラッチハウジング、トランスアクスルケースに、アルミより軽いマグネシウム合金を採用したのだ。もちろん高コストだが、少しでも良いクルマを作りたいという意思が強かったのだろう。東洋工業は鋳造技術に長けていたため、それ以外にも多くの部品を精密鋳造で作り、信頼性の高いエンジンとギアボックスを作っていた。

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当時の”みんなのクルマ”何がすごかったのか

R360クーペの何がすごかったのか

 新技術は種々投入され、ブレーキにはスポーツカー並みのアルフィンドラムを採用。トランスミッションは、2段ギア付きトルコンか4速マニュアルギアのいずれかが選べた。今や6速A/Tが当たり前だが、手動の2段ギアの付いたA/Tだったのだ。サスペンションはナイトハルト式というトーションラバーによる独立懸架である。茶筒ぐらいの外筒をボディに固定し、中央のシャフトにスウィングアームを取り付け、ゴムのねじれをバネとする構造である。当時運転すると、シンプルで乗り心地も良かった。だがその時は、錆が原因だと思うが外筒とラバーの接着が外れ、ボディが底付きしてしまった。右後輪だったため、助手席にお尻をずらして運転したもののタイヤはフェンダーをこすり溶けてしまった。当時の新技術には不具合は付きものだった。

 ボディにも新技術が投入され、それまでのトラックのようなシャーシフレームはモノコックに変わり、さらに、ボンネットとエンジンフードには軽いアルミ合金を採用。シートフレームまでにもアルミが使われていた。また、フロント以外のウインドーは全てアクリルだった。

 この徹底した軽量化により、車両重量は4サイクルでありながらスバル360と同等の380㎏を達成。今の軽自動車の3分の1しかない。ちなみにスリーサイズは2980×1290×1290㎜で、こちらも今の軽自動車より420㎜短く190㎜も狭い。

 この完成度の高いデザインを担当したのは小杉二郎(1915 ー1981)で、どこか彼がデザインした三輪トラックとの共通点を感じる。

 東洋工業が頑張ったのは、新技術を投入しながらスバルより12万5000円も安い30万円という低価格で販売したことだ。中堅サラリーマンが頑張れば手が届く価格となり、庶民のマイカーの夢を叶えてくれたクルマだった。R360クーペは、新たな購買層も開拓したが、スバル360の対抗馬としては、2+2のクーペが不利となり、1962年にメーカーの主力の座をキャロルに譲った。

 このクルマには、軽量化のために考えられるあらゆる技術を投入した技術屋の心意気を感じる。こうした作り手の心に魅力を感じるのだ。当時のマツダはロータリー・エンジンの開発といい、技術屋の魂が輝いていた。

文=立花啓毅
1942年生まれ。ブリヂストンサイクル工業を経て、68年東洋工業(現マツダ)入社。在籍時は初代FFファミリアや初代FFカペラ、2代目RXー7やユーノス・ロードスターといった幾多の名車を開発。

(この記事はJAFMateNeo2014年3月号掲載「哲学車」を再構成したものです。記事内容は公開当時のものです)

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