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クルマ最終更新日:2018.05.22 公開日:2018.05.22

【自動車カメラマンの、旅のしおり】「コンコルソ デレガンツァ 京都2018」 「イルカ」の名を持つ戦前フィアット

2018年の春、京都・二条城で行われたヴィンテージカーのエレガントさを競うコンクール「コンコルソ デレガンツァ 京都2018」。出展された車の中で僕が注目したのが「フィアット 509 デルフィーノ」。

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 1926年に作られたこの車は、当時イタリアのフィアット社が販売していた4気筒990ccのエンジンを持つ小型大衆車”フィアット509″の塗装前のボディを、当時16歳の板金職人が叩いて仕上げた車だそうです。少年の名はアクアーティ・アルフレード君。彼は当時のフィアット社の社長に「ミラノ国際展覧会の職人のコンテストに出展させて欲しい」と懇願し、フィアット社はそれを了承。出展されたこの車は見事にコンテストで優勝します。

 ちなみに車名にもなっている「デルフィーノ」とはイタリア語で「イルカ」のことです。鱗のように輝くボディとそのフォルムは僕にはどことなく鱒(マス)のように見えてしまいますが、歴史的名車のならぶ今回のコンクールのなかでも異彩を放っていました。

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 この「フィアット 509 デルフィーノ」ですが、長い間コレクターの間を転々とし、1981年にはそんな歴史を知らずに譲り受けたオーナーがレストアに着手し現在に至ったとのことです。完成時には80歳近くになっていたアルフレード氏もかつての自分の作品に再会し、その歴史をオーナーに語り継いだそうです。

 そんなエピソードを通じ、1台の車から90年前の若き板金職人の熱意を感じることができる、というのもヴィンテージカーイベントの魅力のひとつですね。「コンコルソ デレガンツァ 京都2018」ではこの1台が匠の技のエピソードに富む1台に与えられる賞、”Craftsman award”に選ばれました。

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会場には他にも貴重なフィアットが

会場には他にも貴重なフィアットが

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 「コンコルソ デレガンツァ 京都2018」では、今回紹介した「フィアット 509 デルフィーノ」のほか1939年の「フィアット 1500 6Cツーリング」(写真上)、1946年の「フィアット 1100 フルア スパイダー」(写真下)が出展されました。

 第二次世界大戦直前の1939年に生まれた「フィアット 1500 6Cツーリング」は、イタリア・ミラノのコーチビルダー「カロッツェリア・ツーリング社」の手によるもので、スーパーレッジェーラと呼ばれる独創的な鋼管フレームと薄い軽金属板を組み合わせた超軽量構造を持つモデルです。

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 また終戦直後の1946年に生まれた「フィアット 1100 フルア スパイダー」は大戦中の爆撃により破壊された工場を買い取り創業したコーチビルダー、ピエトロ・フルア氏の最初の作品だそうです。

 京都に集まったヴィンテージカーはいずれも、その機構やデザインに作り手の熱い思いが宿っているようで、その佇まいから垣間見える時代背景も感じながらの見学はとても楽しいものでした。

2018年5月22日(自動車カメラマン・高橋学)

高橋学(たかはしまなぶ):フォトグラファー。1966年北海道生まれ。スタジオに引きこもって創作活動にいそしむべくこの世界に入るが、なぜか今ではニューモデル、クラシックカー、レーシングカーなど自動車の撮影を中心に活動中。日本レース写真家協会(JRPA)会員。

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