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クルマ最終更新日:2020.03.17 公開日:2020.03.17

「サバンナ」が呼び起こす過ぎ去りし日々の思い出。【ジオラマ作家・山野順一朗の世界】

YouTube「JAFで買う」チャンネルにて、ミニカー「ノレブ」シリーズのプロモーション動画4本が公開中だ。映像作家・尾形賢氏とジオラマ作家・杉山武司氏のコラボレーションにより実現した動画だが、その撮影作業にて協力したのがもうひとりのジオラマ作家である山野順一郎氏だ。山野氏の珠玉の鉄道模型ジオラマもプロモ動画には登場しており、今回はその「スレート張り機関庫」の魅力に迫る。

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画像1。ジオラマ作家・山野順一朗氏の「スレート張りの機関庫」と、ノレブ製の1/43スケールミニカー・マツダ「サバンナ(RX-3)」。

画像1。山野順一朗氏の鉄道模型ジオラマ「スレート張りの機関庫」とノレブ製ミニカーのマツダ「サバンナ(RX-3)」。

 「ノレブ」とは、世界的な知名度を持つフランスのスケールモデルブランドだ。JAF通販紀行では、同ブランドの1/43スケールのミニカーシリーズのうち、1960~70年代に同じ国産メーカーから発売された2車種を1セットにして「懐かしの名車シリーズ」として販売。プロモーション動画は、同シリーズで扱われた4車種それぞれを題材にしたものである。その動画で背景を飾るのは、ジオラマ作家・杉山武司(すぎやま・たけじ)氏の作品だが、1点だけ山野順一朗氏の作品「スレート張り機関庫」が登場する。

画像2。ノレブ製1/43ミニカーのマツダ「サバンナ」(右)。バイクはノレブ製ではない。

画像2。ノレブ製1/43スケール・ミニカーのマツダ「サバンナ」(右)。

はがいちよう氏門下のジオラマ作家として活躍する山野氏

 山野氏は、鉄道模型のジオラマを主に手がけているクリエイターだ。立体画家の第一人者・はがいちよう(芳賀一洋)氏門下の三羽ガラスと呼ばれている(プロモ動画に複数の作品を提供したジオラマ作家・杉山武司氏も三羽ガラスのひとり)。

画像3。マツダ「サバンナ」のミニカーが置かれている「ハーレーダビッドソンの小屋」が小型だったため、背景として「スレート張りの機関庫」が配置された。

画像3。ミニカーが置かれているのが、「ハーレーダビッドソンの小屋」。「スレート張りの機関庫」は、その背景的に配置された。

 当サイトでは、プロモ動画に登場した杉山作品の解説記事として「ジオラマ作家・杉山武司の世界」全3本を公開中だ。その2で取り上げたジオラマのひとつである「ハーレーダビッドソンの小屋」は比較的小型だったことから、尾形氏の判断でその背景的に山野氏の作品を組み合わせて配置することとなった。そして選ばれたのが、2015年に発表された鉄道模型ジオラマ「スレート張り機関庫」だったのである。

画像4。ノレブ製1/43ミニカーのマツダ「サバンナ」。

画像4。ノレブ製1/43ミニカーのマツダ「サバンナ」。

 なおプロモ動画の主役である「サバンナ(RX-3)」は、1972年に発売されたマツダのロータリーエンジン搭載車の第5弾で、「RX-3」とは海外輸出用の名称である。詳細は、記事の最後に掲載したプロモ動画「マツダ サバンナ RX-3 クーペ」をご覧いただきたい。そして「スレート張り機関庫」が登場するもうひとつのプロモ動画の三菱「ギャランGTO」編は、記事「ジオラマ作家・杉山武司の世界その2」に収録した。

画像5。ノレブ製1/43ミニカーの三菱「ギャランGTO」。

画像5。ノレブ製1/43ミニカーの三菱「ギャランGTO」。

「スレート張り機関庫」とはどんな鉄道模型ジオラマ?

 「スレート張り機関庫」は鉄道模型の中でも、HOゲージをベースにしたジオラマだ。日本において最も普及しているとされる鉄道模型のNゲージが1/148~1/160スケールなのに対し、HOゲージはその2倍ほどの大きさの1/87スケールである。

画像6。鉄道模型ジオラマ作家・山野順一朗氏の「スレート張り機関庫」(右)。

画像6。ミニカーの1/43に対し、「スレート張りの機関庫」(右)は1/87と、スケール的には小さい。

 山野氏によれば、「スレート張り機関庫」にはモデルが存在するという。蒸気機関車時代に、愛媛県に存在した宇和島機関庫だ。ただし、実際の機関庫はターンテーブルを中心にして扇形に車庫が配置される構造となっているが、線路が平行に走る形にアレンジされている。

 なおミニカーの1/43に対して、「スレート張り機関庫」は1/87とスケールが異なる。しかしジオラマの世界では、スケールの違いを利用して遠近感を表現するという基本テクニックがある。見る角度は一方向からに限定されるが、手前には大きいスケールのものを、奥には小さいものを置くことで、奥行きをより感じられるようになる。そうした意味からも、「スレート張り機関庫」は「ハーレーダビッドソンの小屋」の背景として配置されるのに適したジオラマだったのだ。

画像7。手前にスケールの大きなものを、奥に小さなものを配置すると、遠近感を表現できる。

画像7。手前にミニカーと「ハーレーダビッドソンの小屋」を配置し、奥に「スレート張りの機関庫」。角度によって遠近感が表現される。

ポイントその1:スレートを固定するリベットの表現のため数百か所もハンダ付け

 それでは、「スレート張り機関庫」のポイントを見ていこう。ひとつ目は、屋根のスレートのリアルさだ。工場や倉庫などの屋根に使われている波形スレート材を再現しているだけでなく、スレートが重なる部分も表現するため、極力素材を薄くする必要があったという。しかしあまり薄くしてしまっても扱いづらくなるので、そのバランスが難しかったという。

画像8。山野順一朗氏の鉄道模型ジオラマ「スレート張りの機関庫」の屋根の拡大画像。スレート屋根やリベットなどの細かい表現が驚異的。

画像8。「スレート張りの機関庫」の屋根の拡大画像。波型スレート屋根やリベットなどの細かい表現が驚異的。

 そして山野氏自身、「今同じことをやろうと思っても、もうできませんね」というのが、スレートを屋根の骨材にリベット止めするところも再現したこと。1か所1か所細い針金をハンダ付けしていったのだが、驚かされるのがその数。屋根全体で数百か所もあるのだ。精密作業を長時間にわたり、根気よく繰り返していく必要がある。「そのときだからできたんだと思います。鉄道模型雑誌で取り上げられたときも、『ほかの誰にも真似のできない方法ですね』と驚かれました」として、一番見てほしい部分だという。

ポイントその2:スレート屋根や外壁などのひなびた感じ

 建物の模型を年季の入った古い建物らしく見せようとした場合、最も重要なテクニックがウェザリング(汚し)だ。もし「スレート張り機関庫」が新品同然のきれいなだけの塗装だったら、せっかくの造形の細かさも目立たなくなってしまい、もっとオモチャ感があふれてしまうことだろう。

 そこで山野氏はウェザリングも徹底してこだわった。それは、スレートの汚れ方を見ればわかる。ホコリが積もり、そして雨水が流れて、本来は白かったであろうスレートがどんどん薄汚れていったことがわかり、機関庫が竣工してから長い年月が経っていると誰もが感じるはずだ。場所ごとに汚れ方の度合いが異なり、何階調ものグレーの濃淡で表現されている。雨水は重力に従って波型スレートの底を伝って直線的に流れるので、雨水の流れも自然に見えるよう、直線的に描写。さらに、リベットからのサビが流れ伝っているところもこだわったという。

画像9。山野順一朗氏の鉄道模型ジオラマ「スレート張りの機関庫」(右)。屋根の汚れ方が均一でないところなど、徹底的なリアルさにこだわっている。

画像9。「スレート張りの機関庫」は、屋根の汚れ方が均一でないところなど、ウェザリングの徹底的なこだわりが魅力のひとつ。

 こうしたウェザリング処理を丹念に施していった結果、何十年も日光と風雨を耐え忍んできたと思わせるだけの説得力を持った機関庫ができあがったのだ。


動画1。YouTube「JAFで買う」にて公開中の「1/43スケール 懐かしの名車シリーズ」のプロモ動画「サバンナ」編。再生時間2分32秒。

 本来、「スレート張りの機関庫」はスケールが異なるので機関庫のすぐ横にミニカーを置いてしまうと、巨大なクルマになってしまう。しかし背景として用いると、遠近法によって立体感が増す。「ハーレーダビッドソンの小屋」も「スレート張りの機関庫」も、本来はこのように並べることを想定して製作されたわけではない。だが、完成度が高い作品同士だとこのように化学変化を起こし、また違った雰囲気を楽しめるのである。

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