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クルマ最終更新日:2019.12.23 公開日:2019.12.23

「AI渋滞予知」、12月20日からE17関越道にも対応

NEXCO東日本はNTTドコモが開発した「AI渋滞予知」を用いた情報配信サービスの実証実験を、12月20日(金)からE17関越自動車道でスタート。NEXCO東日本のドライバー向けサイト「ドラぷら」で利用することが可能だ。

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画像1。「AI渋滞予知」のE17関越道の予測所要時間画面と予測交通需要の画面のイメージ。NEXCO東日本「ドラぷら」より。

画像1。「AI渋滞予知」のE17関越道版の画面。左が「予測所要時間」で、タブを切り替えると右の「予測交通需要」が表示される。NEXCO東日本「ドラぷら」より。

 「AI渋滞予知」はNTTドコモが開発したAIを使った渋滞予知のシステムだ。実は、このAIを使った実証実験は、2017年12月からCA東京湾アクアラインで行われている。今回、そのエリアが拡大されることとなり、あらたに性能を強化してE17関越自動車道でも実証実験を行うこととなった(画像1)。

利用はNEXCO東日本の「ドラぷら」の「AI渋滞予知」のページを開くだけ

 利用方法はとても簡単で、NEXCO東日本のドライバー向けサイト「ドラぷら」の「AI渋滞予知」のページを開くだけだ。同ページは、NEXCO東日本のトップページ中程の右側にある「AI渋滞予知」のバナーをクリックすれば開く。

 今回、数あるNEXCO東日本の高速道路の中で、E17関越道が選ばれた理由は、同社管内で渋滞が最も多く発生する路線だからだという。それに加え、アクアラインの実証実験で行われた「AI渋滞予知」の利用者アンケート(2回実施されて合計約1万9000名が回答)で、今後の展開先の希望として、最も多く選ばれたことも理由のひとつだ(画像2)。

画像2。NEXCO東日本とNTTドコモによる、CA東京湾アクアラインの「AI渋滞予知」実証実験のアンケートによる、今後希望するの展開先の結果。画像提供:NEXCO東日本

画像2。アクアラインの「AI渋滞予知」のアンケートによる、今後希望するの展開先の結果。E17関越道が23%でトップ。画像提供:NEXCO東日本

 E17関越道の渋滞は上り線で発生することが多い。特に、沼田IC(群馬県沼田市)からE17関越道の起点である練馬IC(東京都練馬区)までの間が多発区間だ。そのため「AI渋滞予知」でも、上り線の沼田ICから練馬ICまでが対象とされた。

 アクアラインの木更津JCT~川崎浮島JCT間の約32kmに対し、E17関越道の沼田IC~練馬IC間は約126kmと距離が長い。間に多数のICやJCTもあることから、利用者は始点と終点を以下の通りに複数から選ぶことが可能だ。

【始点:5か所】
●沼田IC
●渋川伊香保IC(群馬県渋川市)
●藤岡JCT(群馬県藤岡市)
●花園IC(埼玉県深谷市)
●鶴ヶ島JCT(埼玉県鶴ヶ島市)

【終点:2か所】
●鶴ヶ島JCT
●練馬IC

 「AI渋滞予知」のE17関越道版では、これら始点と終点を設定し、それぞれに応じた「予測所要時間」と「予測交通需要」を確認できるようになっている。

 なお「交通需要」とは、各時間帯において高速道路を通過しようとする車両の総数を指す。それに対し、高速道路の”通過できる最大の”車両の総数が「交通容量」だ。渋滞は、その道路における交通需要が交通容量を上回ると発生してしまうのである。

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「AI渋滞予知」の仕組みを詳しく解説

「AI渋滞予知」のポイントは人出のリアルタイム情報を利用していること

 「AI渋滞予知」の特徴は、携帯電話ネットワークの仕組みを利用して、観光地などの人出の総計をリアルタイムにカウントしているところにある。「モバイル空間統計」に含まれる「国内分布統計(リアルタイム版)」と呼ばれる技術で、エリアごと、属性ごとなどの集団の人数を示す情報であり、それが利用されている(※1)。

※1 個人を特定できる技術ではなく、今回の実証実験でもユーザーのプライバシーは「モバイル空間統計ガイドライン」を遵守する形で厳重に保護されている

 この人出の総計をベースとし、そこにNEXCO東日本が保有する過去の交通量や渋滞、規制、車両の通過速度などの実績、交通工学的知見を掛け合わせてAIが予測を行っているのだ。

「AI渋滞予知」は2種類のAIで構成されている

 「AI渋滞予知」は正確にはシステム全体の名称で、中核をなすAIにはまた別に「渋滞予知モデル」という名称がある。さらに、この「渋滞予知モデル」は2種類のAIで構成されている。

 ひとつ目のAIは、「交通需要予測モデル」だ。NTTドコモが持つ、観光地などにおける過去の人出の総数と、NEXCO東日本が持つ交通量実績に交通工学的知見を加えた情報から、人出と交通量の関係を学習したAIである。そしてふたつ目のAIが「所要時間予測モデル」だ。こちらは「交通需要予測モデル」で導き出された情報と、NEXCO東日本が持つ通過速度実績に交通工学的知見を加えた情報から、交通量と所要時間の関係を学習したAIである。画像3がシステム全体のイメージだ。

画像3。「AI渋滞予知」の構造。画像提供:NEXCO東日本

画像3。「AI渋滞予知」の構造。画像提供:NEXCO東日本

 このようにして開発されたAI「渋滞予知モデル」に対し、毎日の人出の総計を与えることで、まずその日の14時以降の交通需要が、続いて所要時間が導き出されるのだ(サイト上では、所要時間の方がデフォルト表示される)。当日の人出の総計がベースにあることから、天候やイベント開催などによる突発的な渋滞発生についても対応できることが強みだという。

 アクアラインの場合は、その日の正午時点の房総半島一帯における人出の総数がベースとなる。そして14時から24時までの上り線(木更津JCT→川崎浮島JCT)の渋滞を予測し、予測交通需要と予測所要時間をNEXCO東日本のドライバー向けサイト「ドラぷら」で30分ごとに配信しているのである(画像4)。

画像4。NEXCO東日本とNTTドコモによる「AI渋滞予知」のCA東京湾アクアラインページ。NEXCO東日本「ドラぷら」より。

画像4。「AI渋滞予知」のCA東京湾アクアライン版。E17関越道版と異なり、区間設定はない。NEXCO東日本「ドラぷら」より。

 アクアラインの実証実験で行われたアンケート調査によれば、利用者の90%以上が継続利用の意向と高い満足度を示したという。さらに利用者の半数以上が、アクアラインの利用時間を遅らせるなどの渋滞回避のための行動を取っており、「AI渋滞予知」による行動変容の効果を確認できたとしている(画像5)。

画像5。NEXCO東日本とNTTドコモによるCA東京湾アクアラインの「AI渋滞予知」の利用者アンケート(全2回)の結果。画像提供:NEXCO東日本

画像5。アクアラインの「AI渋滞予知」の利用者アンケート(全2回)の結果。画像提供:NEXCO東日本

【アンケート概要】
前回調査:2018年3月20日~7月19日(このときはリニューアル前で、渋滞開始時刻、ピーク時刻、終了時刻、ピーク時刻渋滞距離、通過時間の予測情報が配信されていた)
今回調査:2019年7月1日~8月1日(リニューアル後の現在のスタイル)

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E17関越道用の新技術とは?

E17関越道に対応するために新たにふたつの技術を開発

 アクアラインで評価を得た「AI渋滞予知」だが、他路線に展開するには解決すべき課題があったという。E17関越道など、都市間高速道路の多くはほかの高速道路との接続による影響が大きいからだ。さらに季節や天候による目的地の変化など、さまざまな要因により交通量や渋滞発生状況が変化することも都市間高速道路において渋滞予測をする際に対応すべき点だった。

 画像6は、季節による行楽地などにおける人口の増減を示したもので、暖色系のドットが人出が多く人口が一時的に増えている地域、寒色系が逆に人口が減っている地域を示す。季節ごとに人出が集まっている地域が異なっていることがわかり、結果としてE17関越道の交通需要も変わってくることが予想される。E17関越道の季節ごとによる交通需要の傾向は以下の通りだ。

春:藤岡JCT以南が増加
夏:全体的に増加
秋:花園IC以南が増加
冬:藤岡JCT以北が増加(積雪状況による)

画像6。NTTドコモの「モバイル空間統計」による、季節によって人出が変化する様子。画像提供:NEXCO東日本

画像6。季節による人出と各エリアの交通需要との関係をイメージしたもの。画像提供:NEXCO東日本

 こうした状況のE17関越道に対して「AI渋滞予知」を適用させるため、新たにふたつの技術が開発された。ひとつは、季節や天候により変化する人出の総計に基づいて各地点の交通需要を予測する技術だ。E17関越道は距離が長いために周辺の行楽地なども多く、それに対応したのである。

 もうひとつが、各地点の交通需要の違いを考慮して所要時間を予測する技術である。これも距離が長いことに対応するためのもので、E17関越道を利用するにしても、利用区間は人それぞれ異なるからだ。こうして、アクアラインよりも長距離かつICやJCTが多いためにより複雑なE17関越道に対応することに成功したのである(画像7)。

画像7。NEXCO東日本とNTTドコモの「AI渋滞予知」のE17関越道対応版の予測行程のイメージ。画像提供:NEXCO東日本

画像7。「AI渋滞予知」のE17関越道対応版の予測行程のイメージ。画像提供:NEXCO東日本

従来の「渋滞予報カレンダー」よりも大きく精度が改善

 E17関越道に対応した「AI渋滞予知」が、従来の「渋滞予報カレンダー(渋滞予測)」に対してどれだけ精度的に迫れるかを調べるため、所要時間の予測結果の比較も行われた。1日の最大誤差が、10分以上から50分以上まで10分刻みでの比較を実施。その結果、画像8にある通りに改善率で71~96%と、より精度が上がったことが証明された。クルマで高速道路を利用して遠方に出かける際は、より有用なツールといえるだろう。

画像8。従来の「渋滞予報カレンダー(渋滞予測)」と「AI渋滞予知」の所要時間予測結果の比較。画像提供:NEXCO東日本

画像8。従来の「渋滞予報カレンダー」と「AI渋滞予知」の所要時間予測結果の比較。画像提供:NEXCO東日本

【各種条件】
沼田IC~練馬IC間を法定速度で走行した場合の所要時間:約79分
評価対象:2015年4月15日(水)~2019年5月31日(金)までの、事故や規制の発生日を除いた785日
改善率の算出方法:(「渋滞予報カレンダー」の誤差日数ー「AI渋滞予知」の誤差日数)/「渋滞予報カレンダー」の誤差日数


 E17関越道での実証実験は、2020年3月末まで実施される予定だが、そこで終了というわけではない(アクアラインは時期未定)。NEXCO東日本とNTTドコモによる効果検証などを踏まえ、他路線への展開を含めた2020年度の本格導入(正式サービス)に向けた検討が進められる予定となっている。今後、多くの高速道路が「AI渋滞予知」の対象となり、渋滞をさらに回避しやすくなることが期待できそうだ。

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